理由を訊こうとして、シローは一歩前に踏み出した。

上田はその様子を察っしてか……。

「シローさん!私にはこれぐらいの事しか出来ませんけど……。

お気をつけて……。

それでは……。また……。」

 静かに前を見据えた。

その横顔は、とても凛々しく思えた。

窓がゆっくりと閉まり、緩慢な速度で車は走り始めた。

「あっ、待って……。」

 シローは慌てて、追いかけようとした。

「無駄ですよ!」

 それを田中がシローの腕を掴み引き止めた。

「あの方はーーもう戻って来ないでしょう……。」

 車のバックランプを見ながら田中が言った。

シローは振り向き、

「あの人はいったい……?」

 田中の細いキリッとした顔を伺った。

「あの方は警視庁の警視鑑です。

日本の警察の中枢にいる方ですよ……。」

 シローは体全体が凍りついてしまい、目はあさっての方を向いていた。

「どうして、そんな方がこんな所に……?」

 焦点の定まらない目で訊いてみた。

「さあ……。

それは、自分にも分かりません……。

でも、いろいろお辛い事もあったのでしょう……。

最近、警視庁では不祥事が相次いで起こりました。

その責任を取って、上田警視鑑は辞職なさるという噂です……。」