何故釈放になったのか、説明もされぬまま田中に案内され、シローは警察署の正面玄関に来ていた。

両手に開いたガラス張りの扉を潜ると、シローは午後のやわらかい日差しの中へ解放されていった。

「向こうの駐車場にリヤカーが停めてあります」

 指をさしながら田中が言った。

「はい……。ありがとうございます……。」

 シローは顔を曇らせて、示された方向を見つめた。

今すぐ、駆け寄りたい衝動にかられた。

すると、

駐車場の陰から黒塗りの車が現れ、玄関先にゆっくりと停車してきた。

機械的な音と共に後部座席の窓が徐々に降りてゆく……。

上田の姿が次第に浮かび上がっていった。

「あのっ!」

 思わずシローの声音が漏れてしまった。

上田は車窓から顔を覗かせ、軽く会釈をした。

「シローさん!

いろいろとお世話になりました」

「いえ、そんな……。

俺は別に……。」

 一人言のようにシローは呟いた。

「すいません!

ここでお別れになってしまいました。

私も福島までお供したかったんですけど……。」

 上田は言葉を足すようにして、

「頑張って、絶対に辿り着いて下さい!」

 声を張り上げ激を飛ばした。