「ちょっと出掛けてくる」
ソファでコーヒーを飲む早苗に、市朗は素っ気なく言った。


「誰かと会うの?仕事?」
早苗がそう聞くと、市朗は早苗に背を向け


「お前の知らない人と会うんだよ」
と言い捨ててリビングを出て行った。


“市朗って、あんな喋り方だったっけ?”


早苗は深くため息をついた。


近頃の市朗は外出だけではなく、家にお客さんを連れて来ることもしょっちゅうで、昨晩も早苗の知らない業界人を連れて帰ってきた。


お酒が入ってどんどんボリュームが上がっていく客の声で、既に就寝している由季が起きてしまわないかとハラハラしたものだ。


「頼むから、今日は誰も連れて来ないでね…。」

早苗はそう願った。