「なんでそんなこというの」
その子は少し困ったように笑っていた。

「だって、だって、どっか行っちゃいそうだったから…ねぇ不安だよ」
あたしは何が不安なんだろうか。

「大丈夫だよ、僕はどこにも行かないよ。君がどこに行っても僕はここにいる」
落ち着いた口調で宥めるように、あたしに言う。
“ここ”とはどこなのだろうか。プールなのか、この学校なのか、この場所…この世界?

「ずっとね、ずっと、約束して」
あたしは泣いていた。

「うん、約束」
あたしは、この子と初めて話したというのに、何を言っているんだろうか。あたし自身、この子を知らないというのに、そこにいるあたしは知っていて…それで…

頭の中に規則的に、小刻みにリズムを打つやけに高い音が響いた。