あたしは目を閉じている。
気付いた時にはもう閉じていて、肌に感じるそよかぜが心地よい。太陽の光が瞼に透けて視界がサーモンピンクに広がる。

あたしが耳を澄ましてみると、水の音が聞こえる。独特の匂いがしてプールにいることが理解できた。すぐ近くで子供のおしゃべりが聞こえて、バシャバシャと水を蹴る音が聞こえた。

あたしがゆっくりと目を開けると、思っていた以上に太陽の光が強いことが分かった。
少し眩しくて目を細める。

あたしはプールサイドに座っていた。足をプールの方へ放り込んで膝下あたりまで水に浸かっている。

あたしを呼ぶ声が聞こえて、声のする方に視線を向けた。

声をかけてきたのは、あたしの同級生らしい男の子で、絵ばっかり描いているおとなしい子。自然に理解できた。
その子は既に水に浸かっていて、頭までびしょ濡れだった。
あたしはこの子のバディだから、この子がプールから上がるのを待っている。

「泳ぐの、上手だね」
あたしが言った。

「ありがとう、本当は潜るのが一番好きなんだ」
少しはにかんで、その子は言った。

「何で?」

「潜るとさ、余計な音が聞こえないでしょ。水の音だけで、心地いいんだ」

「そう。じゃあ、蝉のおしゃべりも聞かないで、お日様にも気付かれないで、通りすぎる風にも触れないで、――は冷たい水の中に沈んでいっちゃうの?」
あたしは冷静なのに、“そこ”にいるあたしは泣きそうな顔をしていた。
あたし自身、その子が話している意味もあたしが言っている意味も全く理解できなかった。