「…健一さん…お願いがあります。」





冬彦の言葉に健一は驚いようだった。




「お願い……?」




「えぇ……」






冬彦は一旦言葉を切り、しばらくの沈黙を置いた。








「夏美を…病院から出してください。」






健一は面食らったような顔をして冬彦を見ていたが、すぐに険しい顔になった。






「それは出来ないよ。例え完治しなくても、症状を和らげていくのが医者の仕事だと、僕は思っている。」







「でも…!僕は残された時間を夏美と過ごしたいんです!」





冬彦は焦りの色を顔に浮かべ、話した。



自分の死が間近に迫っていることを、彼は感じていた。




健一はそんな彼の様子を見て、少し困った顔をした。




「だが…物理的にも不可能なんだ。」




「何故です?」




「夏美ちゃんは…もう自分で歩けないんだ。」



冬彦はあまりの事態に一瞬言葉を失ったが、低い声でゆっくりと話した。





「…なら、僕がおぶっていきます…」