「何やってんの?」
「あっ、あのトイレ!そう、トイレ!」

髪を拭きながら出てくるお兄ちゃんに見られないように箱を後ろに隠しながら後ずさる。

もうちょっとでベッドに辿り着くというところで、手を滑らし、箱がポトリと床に落ちてしまう。

ビミョ~な沈黙が2人の間を流れる。

お兄ちゃんは溜息を吐くと、ツカツカと私の傍まで歩いてくる。

恐い。
何が恐いか分からないんだけど、なんか恐い。
とっさに両手で頭を庇う。

その私の横を通り過ぎてお兄ちゃんは屈み込むと、例の箱を手にして、ポイっとゴミ箱に放り込んだ。

「ったく。子供には刺激が強過ぎると思って気を利かしたのに」

お兄ちゃんは私の腕を掴むと、ベッドの上に私を座らせた。

そして、自分は冷蔵庫からビールを取り出し、一口飲むと、私のためにコップに水を持って来てくれた。

大人なんだ。
あの箱が何なのかお兄ちゃんは中を見なくても知ってた。
それに、冷蔵庫にビールが入っていることも知ってた。

考えたくもないけど……お兄ちゃんは誰か女の人と……

その事実に、まるで頭を殴られたみたいなショックを受けた。

「どうした?」

私を覗き込むお兄ちゃんの手からビールを奪うと、ぐぃっと一気に飲み干した。

お兄ちゃんが唖然とした顔で私を見てる。

「私、子供りゃなひ!!それにお兄ちゃんはお兄ちゃんなんか……ら、ないもん!!」

頭がふわふわくらくらする。

「あーー。分かった分かった。この酔っ払いめ」

お兄ちゃんが私の手から振り回していた缶を取り上げる。

武器を取り上げられた私は、手元にあったリモコンをとっさに掴み、お兄ちゃんに応戦しようとした。

その時、何かの拍子にテレビがつく。

ベッドの上で、もつれ合う裸のカップル。
女の人の甘い声が絶叫に変わる。
私の目も点に変わる(・_・)

お兄ちゃんは急いでリモコンを私からもぎ取ると、チャンネルをブツッと切り、がっくりとうなだれた。

「……お前が子供じゃないのは分かった。だから、もうこれ以上、俺を刺激しないでくれ」

お兄ちゃんがそんなことを言っていることにも気付かずに、私は床に崩れ落ち、パニックする頭を残したまま意識を手放してしまっていた。