ホテルを出る時、受付のおばさんと目が合ってお辞儀をした。

「いいお兄ちゃんだねぇ。御代は今度につけとくから、また使っておくれ」

次って……2人で顔を見合わせて、クスッと笑った。

「面白いおばちゃんだったね」
「あんな調子で、昨日も部屋を追い出された」
「残念でした~♪」
「全っ然。お前のなんか見ても仕方な……いてっ!」

さっきのお返しとばかりに、お兄ちゃんの頭をげんこつでポカリ。

そんなお兄ちゃんが海を見ながら呟く。

「せっかく海に来たのにな」
「そうだ。何を見たかったの?」
「見たかったんじゃない。まぁ、ケリをつけたいことがあって。でもタイミング、ズレまくり」
「そう言うことってあるよね」

うんうん、と頷く私を見てやっぱりお兄ちゃんは苦笑い。

振り返りながらお兄ちゃんは浜辺を見た。

「ああ……そうだな」

お兄ちゃんが不意に私の歩いている一歩前で止まる。

「昨日、お前、言ったよな。俺がどんな男でも、何をしても、何が起こっても全てを許してくれるって」
「言ったけど……」

あ、あれは夢じゃなかったの。

慌てて顔を上げる私の唇にお兄ちゃんの唇が重なる。

「お、にぃちゃ」

驚く私の唇が再びお兄ちゃんの唇で塞がれる。

「好きだ」

そう言った後で、お兄ちゃんは深々と溜息を吐く。

「はぁ~。ようやく、言えた」

真っ赤になる私のおでこにお兄ちゃんのおでこがコツンと当たる。

「わっ、私も……」

答えに詰まる私をそっと抱き締めると、お兄ちゃんは「知ってたよ」と優しく囁いた。