ちーちゃんへ
初めてちーちゃんに手紙書くね。
なんか照れるな…
でも今から言うことは直接言えそうにないからさ、手紙に書くことにしたよ。
ちーちゃんにずっと言いたかったことがあるんだ。
ちーちゃんとは父と娘って関係になっちゃって…
そのせいで気を使わせてばっかりだったよね。
本当にごめん。
あのままの関係だったら、ちーちゃんの心の扉はもう少し開いてたかもしれないのに…
今さらそんなこと言っても仕方ないけど、一つだけ言いたいことがある。
ちーちゃん…
わがまま言っていいんだよ?
俺はそのわがままを受け止める…
大丈夫、それくらいの度量は持ってるから。
いつでもいい。
ずっと待ってる。
結平より
手紙を読み終え、気付くと涙が出ていた。
いくら拭いてもあふれてくる。
「……っ」
一枚の手紙。
それはお父さんからではない…
結平から送られたもの。
あたしが好きになった人から送られたもの…
あたしはギュッとぬいぐるみを抱いた。
もうこの気持ちはどうすることもできない…
「こんな気持ち、知るんじゃなかったよ…」
そう、ボソリと呟いた。
そして玄関に向かって走り出した。
「結平…!!」
一生懸命走った。
こんなに走ったのは久しぶりだ。
やっとの思いで結平に追いつく。
「どうしたの!?」
あたしは何も言わず、結平に抱き付いた。
二人の間にウサギのぬいぐるみが挟まる。
「ちーちゃん…?」
「…結平」
結平に何も言わせないように名前を呼んだ。
「あたし…結平のこと…」
もうこの気持ちは止められない。
胸から溢れてしまったから。
どうなってもいい…
…言ってしまおう。
本当の気持ちを…
「…大好き」
そう言って結平にキスをした。
その時、空から白い雪が降ってきた。
初雪だった。
告白をしてから数日が過ぎた。
あれから結平は部屋に一度も来ていない。
毎日のように来ていたのに急に来なくなった。
結平に告白をしてしまったから…
自業自得だ。
でもあのまま…
父と娘の関係のまま、自分の想いを秘めることはできなかった。
あまりにもの苦さに、耐えきれなくなったから…
「え!?結平さんに告白した!?」
クリスマスにあったことを愛美に言った。
「それでチカはどうしたいの?」
「あたしは…」
愛美にそう聞かれ、言葉につまる。
あたしはどうしたいのだろう…
結平に告白して、どうなりたいというのか。
お母さんの男までも、奪おうというのか…
毎日そのことばかり考えていた。
「はぁ…」
学校から帰る途中、何度もため息をつく。
これからのことを考えると、気分が重くなった。
結平とどう接するべきか分からない。
いや…
答えはすでに出ているのかもしれない。
結平はあたしとだなんて思ってないのだから…
あの結平がお母さんを裏切るなんて、絶対にありえない。
ただ…
どうやって元のように戻ればいいのかが、分からないだけなのだ。
「ちーちゃん」
不意に呼ばれる。
あたしをこう呼ぶ人は一人しかいない…
「結平…!」
アパートの前に結平がいた。
寒い中、あたしを待っていたようだ。
久しぶりに結平に会う。
「久しぶりだね」
「…うん」
会話が途切れる。
何を話せばいいのか分からない。
結平も困っている。
「あのさ…」
これはあたしがまいたタネだ。
あたしがなんとかしないといけない。
「クリスマスにあったことは忘れて…」
「え…?」
「あたし、どうかしてた…娘が父親に告白するとかないよね」
そう笑って話すと、結平は何も言わずに下を向いた。
「あの日は何もなかった…今まで通り親子としてよろしくね」
これでいい…
これで……
「寒かったよね。部屋あがっていくでしょ?」
「…ごめん、今日は美夜子さんと約束があって…」
「そっか…お母さんと約束してるんだ…」
本当にこれでいい…?
あたしムリしてない?
「ならこんなとこいないで、早くお母さんのとこ行って!」
そう言って結平の肩を押した。
結平の足が一歩前に出る。
「あー!寒い!早く部屋で温まろう!」
あたしは結平の顔を見ずに階段を駆け上がった。
目からたくさんの涙が流れる。
拭いても拭いても止まらない。
「…バッカみたい」
階段の途中で足を止めた。
冷たい風が顔に触れた。
その時だった。
ぎゅっ……
後ろから誰かに抱き締められる。
大好きな人の香りがした。
「…え?結平…?」
後ろを向くと結平がいた。
結平は何も言わず、強くあたしを抱き締める。
段差で結平はあたしより低くなり、まるで子供のようだった。
あたしは結平の冷たくなった手に、そっと自分の手を重ねた。