「そろそろ、帰らないと」
歩美の言葉が、俺を現実に引き戻させた。
「遅くなったけど、誕生日おめでとう」
用意していた小さな箱を、歩美に差し出す。
「クリスマスイブ。歩美の誕生日。毎年一緒に過ごしていたのに……ごめんな」
「ありがとう。でも、受け取れない」
その目はしっかりと開き、俺を見つめていた。
その表情に、迷いなど、一切感じられなかった。
「今日は海に、さよならを言いに来たから」
「どうして?もう充分に距離を置いた。俺には歩美が必要なんだ」
背の高い歩美は、しっかり者で、落ち着いて、賢くて。
いつも俺の一歩先を歩くような女だった。
俺は、それがどこか心地よかったんだ。