「お礼を言われるとは思わなかったな」

相変わらず、おどけたようなその口調からは、真意など全く読めそうにない。



頷きながら、踵を返すと、予想もしてなかった言葉が返ってきた。



「本当は、悔しいよ。だけど、僕じゃ、ダメなんだよ。カイ君じゃなきゃ、ダメなんだよ」


「……じゃあ、どうして。心臓のことを俺に言わなかった?……俺の前から姿を消した?」


これは、本音だった。俺の知らないことを、この、南波和泉という男は知っている。

そして今も。

レイは、和泉とは会って、話をしている。




「鈍感すぎる二人は、二人で話し合ったらいいよ。僕、そこまでお人好しじゃないし」


そう言って和泉は、じゃあ、と言って俺に背を向けて去っていった。