彼の武器は短剣一本。

しかし、その腕前を前に

生き残る者はいない。

雫の目に映るのは朔夜一人。

ただ、彼女の方にゆっくりと歩み寄る。

その間に襲いかかる者は

せいぜい、色のついた空気としか見られない。

少し身体を捩らせただけで

攻撃を受け交わされ

何の戸惑いも無しに切り裂かれる。

彼の纏う空気は、

騒々しい戦場の中でさえ静かであった。

視線の先にいる朔夜は

目を爛々と輝かせ

鬼ごっこをする子供の様に

無邪気な笑みを湛えている。

ひょいひょいと飛び上がっては

手の届かない場所の敵へとクナイを投げつけ、

着地すると同時に近距離の者は

トンファーで蹴散らされる。


…本来ならB・Bが総動員で出ていくハズなのだが

数年前、猫側の軍は

ある事件によって

壊滅状態へと追いやられ

少しづつ回復しているところではあったが

二人でも充分だろう、

と言うのが朔夜の意見だった。

雫はその意見に仕方無く同意しつつも

絶対に自分より前に出て来る事の無いように言っていたのだが

この結果である。

朔夜が強いのも分かっているつもりだ。

しかし、万が一の事を考えると

最前に出すことは許せなかった。