「あ、あの万年筆・・・明日、必ず持ってくる。今日はあわてて忘れて来ちゃったけど・・」

「いいよ。退院するまで預かっててよ。無くすと困るし。」

「うん。解った。あ、今日は・・・もう帰るね。面会時間そろそろ終わるし。」

「気をつけて帰れよ。」

「うん、」

なんだかちょっと恋人同士みたいな?

やっぱり野澤といると楽しい。どんどん好きになっている。

よほど強い痛みがあったのだろう・・・今目の前にいる野澤は笑っているが、

こうしてみるとちょっと顔色が悪く見える。

帰りの電車の中でも、うちに着いてもずっと野澤の事ばかり考えてしまう。


翌日、加奈子は約束通り野澤の病室にやってきた。

 今日は殺風景な病室に飾る花と花瓶も持ってきた・・・

 早速活けて飾る

 「いいよ、花なんか・・・おにぎりだけでよかったのに。」

 「おにぎりも持ってきたわよ。・・・冷めちゃってると思うけど・・・」

 「さんきゅ」

 野澤は、子供みたいな笑顔を見せる・・・加奈子はきゅんとなる・・・

 今日は顔色もよくなっている

 二人で他愛もないことを話しながらおにぎりをほおばる・・・・

自分でにぎった粗末なおかかのおにぎりがとても美味しく感じられる

「卵焼きとみそ汁もあるのよ。」

「ピクニックの弁当みたいだな。」

「あ、・・・・」

 なんだか視線を感じてそちらに目をやると同室の男性と目があった。

「・・・ごめんなさい。騒がしくしてしまって・・・」

「いえ、面会時間中ですから。お気になさらずに楽しんでください。ははは・・・

野澤さんいいですねー 彼女の手作り弁当」

「え?あ、コイツ、彼女じゃないですよ。友達。あ、井川さんもどうですか?」

「あ、そ、そうね。たくさんありますから・・・冷めてますけど、どうぞ。」

加奈子は紙皿におにぎりと卵焼きをお裾分けした。

 「おいしいです。本当においしいです。このおにぎり」

ただのおにぎりなのに その男性はめちゃくちゃおいしそうに食べてくれた。

それなのに野澤は亜美と3人でたべたクリームシチューの時みたいに

美味しいといってくれない。

 「看護師にみつからなかった?」

 「え?差し入れダメなの?」

 「食中毒とかあったら・・・とか、言って怒られるらしい。

井川さん、この前、看護師に叱られてたよね?」

 「そうなんですよ。看護師にこっそり食べてるの見つかって叱られました。あはは・・・」

「え、やだ、大変」

「早く片づけないとそろそろ誰か来るかも」

野澤がわざと加奈子を焦らせる・・・

「禁止ならそういってよ・・・」

加奈子が焦って片づけているのを野澤はおもしろがって笑っている