「あ、お姉ちゃん!元気?」

 「元気よ。亜美ちゃんも元気だった?」

 「うん。お隣なのに最近お姉ちゃんと全然会わなかったね。」

 亜美は相変わらず人懐っこい笑顔をしている。

 「最近、残業で遅かったから。あ、あのさ、先生最近忙しいのかな?」

 「あ、先生ね今お休みしてるの。」

 「え?どうかしたの?」

 「亜美、良く分からないけど・・・

 パパが学校から手紙貰ってるからパパに聞くね。」

 亜美は直ぐに父親を呼んできた。

 「すみません・・・野澤さんに返したい物があって連絡してるんですが

 連絡撮れなかったもので・・・」

 「あ、野澤先生 足を骨折されたんですよ。」

 「え?」

 「上級生のサッカークラブの顧問をされてたようなんですが、

 先週の突風で、危険だからとテントを片づけている最中に一度巻き上げられた鉄骨が落ちて

きて、先生の足に当たったと聞いてます・・・今、入院しているそうなんですよ。」

 「どこの病院なんですか?」

 「・・・あ、恐らく私が入院していた恩恵病院だと思うんです。病院名まではお知らせに無

かったのですが、私が受診日の時、あの病院のロビーで教頭先生と副担任の高津先生をお見か

けしました。たぶん、野澤先生のお見舞いではないかと・・今回の事故は、学校側が行事で使

ったテントを出しっぱなしにしていたのがいけなかったようなので。

私も例の件でお世話になったのでお見舞いに行きたいのですが、

お知らせにはお見舞いはご遠慮くださいとありましたし、逆に先生が気を遣うかもしれないの

で・・・」

 「あ、ありがとうございます。」

加奈子は恩恵病院に向かった。

向かっているタクシーの中で電話して病棟を訪ねたが、個人情報だから教えられないと言われ

た。・・・でも、直接行けば・・・骨折なら整形外科の病棟だろうから

すぐ、わかると思う。

 加奈子は何も考えずに病院に来てしまった。

整形外科の病棟にエレベータで下りたってすぐの病室に  野澤直人 とネームがあった。

あっけないほどすぐに見つかった。

ドアは開け放たれていたがノックする。
 
「はい、どうぞ」

野澤の声だ。

「さっき、斉藤さんから怪我したって聞いて・・・」
 
「ほら、」

野澤は足を指さす。

「災難だよな・・・でも自然が相手じゃ怒ってもしようがないし。何?」

「急に連絡取れなくなったから・・・」

「そんな顔すんなよ・・・俺、死んだとか噂になってた?」

「ばか、病院で変な冗談言わないでよ・・」

「今は、ホント大丈夫だよ・・・でも、昨日じゃなくてよかった。」

「・・・なにが?」

「昨日まで、死ぬほどいたくてさ・・・マジ泣きしそうだったよ。あはは・・」 

「大変だったのね」

「二日間痛さのあまりメシも喉を通らなかった。だいぶ腫れてたらしい

・・・今日から痛みも治まってきて、・・・そしたら腹も減ってきて。

今日はしっかり食べた。足りないくらいだよ。」

「・・・最悪の状態は、ぬけたってことかな?よかった・・・」

「佐伯が初めてのお見舞い者だな。・・・一昨日教頭と同僚が来たらしかったけど

看護師さんにお願いして帰ってもらったんだ。あの痛みに耐えてるときに

人に会うなんて無理だった。」

「ごめんね。私、そんな事考えもしないて゛電話やメールしちゃった」

「いいよ。どうせ電源切ってたし。」