俺は、屋上を出た。

もう、蔵重のことは考えたくないんだ。

翌日。
その日も、稜人は俺に蔵重と話すように迫った。
そのたびに俺は、話題を変えたり、拒否する。

蔵重は、日にちを重ねることに、だんだんと周りと溶け込んでいく。
その度に、蔵重の笑顔を見ることが多くなる。
同時に、受験生だというのに蔵重に興味を持つ男子も増えていった。
何故か、その男子を見るとイライラしてくる自分がいた。

ついに、休み時間。
予鈴がなり、移動教室に行かないといけない。
1人遅れている蔵重と偶然にも2人きりになった。

そこで、俺は勇気を振り絞ってみた。
「あ、あのッ。蔵重さん・・・。」
すると蔵重は驚いて、
「ご、ごめんなさい。」
とだけ言って教室を出て行った。

やっぱり、向こうも気づいていた。
俺が知花 郁弥だってこと。あのメールの相手だということ。
そこに、忘れ物をしたらしく先に出てったはずの大槻が教室に入ってきた。
「あ、知花。急いだほうがいいよ?」
「お、おう。」
俺が筆記用具などを出していると
「なぁ、知花。水柚を知ってるんだよね?」
「え・・・。」
「本当は、『内緒だよ?』って水柚が言ってたんだけど・・・、本当は水柚、知花と話したいんだよ。」
俺達は、移動教室に向かいながら話すことにした。
「けど・・・さっき、蔵重に話しかけたけど、拒否された。」
「水柚は恥ずかしがりやだから、知花と話すのは怖いらしい。・・・別の意味もあるけど。」
「え?なんつった?」
「なんでもない。とにかく、水柚と話し合って欲しい。それだけ。」
そういうと、小走りに移動教室へ向かって行った。

蔵重は、今までのことをどう思っているんだろうか。

俺は、もう一度蔵重と向き合ってみようと思った。