ある日、いつものように仕事を頼もうと近付くと、高階は机に置いてある書類とにらめっこしている。


何をしてるんだ? と思って覗きこもうとした時、高階がふいに声を上げた。


「・・みわ」


その音が耳に届くと同時に、怒りが沸く。

またか、と少々うんざりしながら。


音もなく高階の真後ろに立って声を落とす。


「・・・違う」


いつものことだ、そうは思うけど、声に含まれた怒りを抑えられない。

肩を上げて振り返ったその顔に写るのは、恐怖。


「ち、違う・・んです、か?」

「・・違う。その読み方されるの、俺すごい嫌い」


淡々と声を落とす。


そう、嫌い。

ガキの頃から女みたいだって言われて、必ず読み方も間違えられてきた。


「な、何て・・読むんです?」

その質問も何十回されたかな。
ほとほとうんざりする。


こいつが悪いわけじゃないって、わかってる。

大人げないことも、わかってる。


だけど、素直に教える気にはなれなくて。


「知らん。自分で考えろ」

読めやしない、と思いながらも、読んでくれることを期待する。


俺、ガキだな。

こんな、いくつも年下の小娘相手に。