「え……?」


後ろから聞こえてきたのはまたしても、無邪気を装った冷たい声。


「まぁ…行くって言っても行かせないけどね。」


ぎゅっ、とハジメの手が椅子の背を握りしめたのがわかった。


「ハジメ……?」


なんとなく、振り返れない。


「でも、見たところチョコも作ってないみたいだし…作れる状況じゃないみたいだし?
やっぱり、今日は無理だよね?」

確認するみたいに、私の顔を覗き込むと、


「ま、縁がなかったと思って諦めるしかないよね。」


いつものように、ニコッと笑った。

……何?

さっきから、ハジメは何を言ってるんだろう?


「あ。もしかして、待ち合わせとかしてたりする?」


向かいの席に移動しながら、そのままの調子で続けるハジメ。


「は…?」

「だったら、代わりに俺が行ってきてあげるよ?」

「何言って…」

「そして、言ってきてあげる。アヤは今日、ずっと俺と一緒にいる予定だから来られない、って。」