私は知っていた。

父は昔、医大に行っていたのだが、おじいちゃんの借金のせいでやむなく大学を辞めたのだ。

自分の夢を人に台無しにされたのだ…

私はすかさず父に言い返した。

「父さんが医者になりたかったのは知っている。
おじいちゃんの借金のせいで自分の夢をぶち壊されたのも知っている。
だからって自分の夢を人に押し付けるなよ!
今あんたがしようとしている事は、昔おじいちゃんが父さんにした事と一緒だよ!」

気がつけば、私は両拳を限界まで握り、全身が真っ赤になっていたが、
父は冷静だった。

そして、その冷静な口調で父が言った。

「お前、何の為に野球をやりたいんだ?」

私は興奮しながら言い返した。

「好きだからさ!
楽しいからさ!」

「お前の野球に対する気持ちはただ好きという感情だけだ。
別にプロになりたいとかそこまでの"覚悟"でやっているのではないのだろう。
中学ではスポーツと勉強を両立できたが、医者になるとなるとそうはいかない。
お前も心のどこかでは分かっていたのではないのか?
だから"あえて"北高を選んだのだろう。
医者はとても素晴らしい職業だ。父さんはな、人の役に立ちたくて…」

私は頭の中がパニックになり、わけが分からなくなってきた。

「医者、医者ってうるせーよ!
オレはな、別に人の役になんか立ちたくねーよ!毎日楽しけりゃそれでいいんだよ!」

私は走って階段を駆け上がり、部屋のドアを思いっきり閉めた。

新しい制服がやけにムカつき、すぐに着替えて枕の方に足を向け、ベッドに仰向けに寝そべった。

電気はつけていない。

壁に掛けてある時計の秒針の音がうるさい…

心臓の鼓動に時計の秒針がだんだんと追いついてくる。

頭の中が少しずつ、冷静になっていく。

足の方向を変え、頭を枕の上に置いた。

天井を見つめている。

私の家は共働きをしなくても十分に食べていける。

なのに母はパートで残業の日も多い。

この事が何を"意味"しているかは分かっていたが、私はあえて"無視"し続けてきた。