高校の入学式が終わり、親子三人で家に向かった。

帰りながらも、

「カキーン!」

という金属バットの音に私の胸はとてもはずんでいた。

今日は入学式だから帰りにレストランで食事をしようと父が言った。

私はさっきとは違う部分の胸がはずんだ。

店内は結構混んでいて、喫煙席しか空いてなかったので10分程待たされた。

父も母も煙草を吸わない。

父は昔は吸っていたようだが、私を産んでから母の体調が悪くなり、肺炎を起こしやすい体質になったようだ。

もちろん両親から直接聞いたわけではない。

子供というものは自然とこういう事が分かるのだ。

席につき、母が私に言った。

「優太、高校入学おめでとう!
今日は何でも好きな物食べていいからね。」

私は反抗期のせいもあり、母と目を合わさず小さくうなずいてメニューを手に取った。

自分の家の家計は分かっていたので、"1000円以上"の物には目がいかなかった。

何を注文したのかは覚えていない。

食事を終え、家に着き、自分の部屋に上がろと階段に左足をかけた時、父が口を開いた。

「優太、少し話をしないか?」

めんどくせー……

私は父から一番離れたテーブルの席に座った。

「何?」

私はちゃんと父の"目"を見て聞いた。

父の"目"も私の"目"をちゃんと見ていたが、何か"覚悟"みたいなものを感じた。

30秒程"睨み合い"が続いた時、父が口を開いた。

「…高校では野球をやめなさい。」

ハァ!?

私が口に出す前に父が続けた。

「これからは自分の将来を見据えて勉強に専念しなさい。」

私は怒りを抑えきれず、ガラでもなく感情むき出しで父に言い返した。

「俺は野球をやる!
中学の時だってちゃんと野球と勉強を両立して、約束通り一番進学校の北高に合格したじゃねーか!
いい加減もう自由にさせてくれ!
オレはもう子供じゃない!」

母はふすま一枚向こうの台所で洗い物をしていたが、二人の会話は確実に聞こえている。

父は改めて"覚悟"を決めたように言った。

「そんな事では医者になれないぞ。」