「…私ね、転校するの…」

へ!?

私は"じゃんけん"の名前を始めて聞いた時を思い出し、すぐに
"我"
に帰った。

「何で!?」

私はまた、すっかり
"我"
を忘れていた。

ガラにもなく…

「私の病気…ね、
あんまり良くないみたいなの。
階段登るのも、前の倍くらいかかっちゃって…
みんなに迷惑かけちゃうから…」

「そんなの、みんなで協力すれば大丈夫だって!何ならオレ一人でも…」

野田の目には涙が浮かんでいた。

そして、

"その涙"

に負けないように、一生懸命話してくれた。

「ありがとう…坂本君…でもね、みんな一人一人に夢があるでしょ?
私がお医者さんになって、私と同じ病気の人を治したいって思うように…
そして、もしその
"みんなの夢"が私のせいで遅らせてしまって、たくさんの"笑顔"が少なくなっちゃうの、私嫌だもん。」

…あー、今分かった。

やっと分かった。

私を強く引きつける、私の中の

"何か"

が…。

私は泣いている野田に、お構いなしに言った。

「…野田、悪いけど、
お前の"夢"は叶わない…」

「え?」

野田が涙を拭いながら、私の顔を見た。

私は"泣きながら"野田に言った。

「お前の病気はオレが治す!
オレが"医者"になって必ず治す!」

私は不思議と自分が泣いている事が恥ずかしくなかった。

野田の目から再び"涙"が溢れた。

「オレ、人の役に立ちたいなんて思った事ないけど、お前の役には立ちたい!
どんな事があっても…
だから…だからそれまで…」

私は涙でそれ以上言う事ができなかった。

こんな感情初めてだ…

野球をしている時も、
健二や梨香といる時にもなかった…

私は

"生きなくてはいけない"

と、心の底から思った。

「ありがとう、坂本君!」

野田は満面の笑顔で、
それでいて、"それ"に
矛盾するかのように涙を流しながら言った。

夕日の"光"はベンチの上で泣いている"二人"を優しく包んでくれた。