「………は?」

「だから!
急用がはいったから帰るんで代役よろしく!」
「い、いやいや意味わっかんないし。
私なんも得しないじゃん?」
「なんかあるさ!
じゃあ急ぐから!」

そう言って、普段のあの子からはかんがえられないほどのスピードで教室から出ていった。
そんな姿をただじ、っとみるしかなかった私。

……あぁ、ついていない。
ため息をひとつもらし、急いでやっていた帰るための準備を、やめた。




「…ざけんなよー。」

もう一人の担当の人も来ず、一人で誰もこない図書室にいた。
ただでさえそんなところにいたから寂しいのに真っ暗な廊下にでてよけい寂しくなってしまう。


「……ん?」

…なんか聞こえる?
確か今日は吹奏楽部も合唱部もないはずなのに、音がするのはなんでだろう。
疑問に思ったら自然と足が音楽室にむかっていた。


そして私は目を奪われた。


一言では表せれないくらい、上手だった。
でもなにより強く衝撃を受けたのはピアノと声の切なさ。

申し訳なさそうにだされる音と、低く響く声が妙にあっていて。
気付いたら普段は流さないほどの涙を流していた。
大丈夫、誰もきいていないと自分に言い聞かせながら、声を抑えるように口に手をあてて泣いた。



「…どうした?」
「……え、…。」

……泣くことに必死で気付けなかった。
でもさっきまでピアノをひいていた人がここにいる。
あたふたするしかできない自分に叫ぶように口を開いた。

「あ、ああああの!」
「なに?」
「ええと、その…。」

結局言葉をつまらせてしまう自分が情けなかった。
さっきとは違う感情で流れる涙はとまる気配がない。
相手もとんだ災難だと思う。
こんな目の前でわーわー泣かれて、あげくのはてには黙りこくってしまわれるし。
自己嫌悪にひたっていたら、頭になにかを感じた。

「へ……。」
「……。」