カモミール・ロマンス





いつも通りの朝だった。


いつもの面子でいつも通りの時間に同じバスを待っていて


そうやってまた1日が始まろうとしていたのに。





――――なんでだ?







胸がバクバクと音をたてて鳴る。

押さえる手に恥ずかしいくらい大きな脈動が伝わってきて。

顔が赤らんでいくのを抑えることができない。




いつも通りの始まりに、ほんのちょっとだけ。

いつもと違うのが混じった。


バス停でバスを待っていたオレの後ろを君がふわっと通り過ぎて……



そうだ、あれは






――りんごみたいに甘い香りだった。

















『カモミール・ロマンス』











がやがやと騒めきたつ教室。


無理矢理に着せられた制服をほんの少しでも自己流にと、着方に頭を悩ます。


恥ずかしいほどの勘違いだとか、もやもやとした行き場の無い感情だとか。


色恋に憧ればかりが募って、でも実際はそんな人々を横目に見ているだけ。


ここはそんな高校生達のとある教室。


「っつかさ、昨日のMスタ観た?」

「オレがさおりんを見逃すわけがねぇだろ」

「出たよさおりん。お前さおりんさおりんってうるせぇよ」

教室の片隅で花を咲かせるのはたわいもない会話だけ。


でも、そんな日々がやっぱり、ほんのちょびっとだけ好きだったりする。







「はよーっす」

長身にぼさぼさと無造作に伸びた髪。

肩から下げるタイプのスクールバックを、半ば無理矢理に両肩に掛けた男、木村直也(きむらなおや)が教室に入ってきた。

「ナオ遅いよ、チャイムぎりぎり」

直也は自分の席にスクールバックをかけ。

自分の名前を呼んだ短髪の男、山田翔(やまだしょう)の席の前に座る。

前後逆様に座り椅子の背もたれに身体を預ける様に座った。

「翔が無駄に早すぎるんだよ。今日びの高校生は遅刻ギリギリも普通なジェネレーションだよ。ふぁ。」

直也は年中あくびをしている。

「なに、寝不足?」

翔が心配しているというのに直也はあくびで返事をした。

「ふぁ。いや、がっつり寝た。でもまだまだ寝足りないんだな、これが」







「翔この前貸したDVD観た?」

翔の右隣の席、さっきまで女子数人で話していた高田美咲(たかだみさき)が話し掛けてきた。

「あー、まだ見てない。昨日も部活で忙しかったし。ごめんね」

翔は顔の前で両手を合わせて、申し訳ない。と合図を送る。

美咲はトレードマークの少し茶色がかった綺麗な髪を揺らし、首を振った。

「良いよ。ま、翔が頑張ったところでウチの弱小サッカー部が強くなるとは思えないけどね」

「なんだとぉ?」

「あははは……ところでソレ何?」

美咲が指差したもの。

それを、翔が呆れ顔で見つめる。

「ああ……コレ?」