その場所は僕のよく知っている場所。

男の子の隣に描かれた女の子は、僕の愛しい人。

描かれた本は僕と彼女をつないでくれた、大切なもの。

描かれた桜は、僕が彼女に出会った頃の桜。

女の子は描き終わった絵を眺めて悲しそうに微笑んだ。

描かれた男の子の絵に軽くくちづけをして、つぶやいた。

『待っててね。森山くん…』

僕が彼女の名前を呼ぼうとすると、意識が内側に引っ張られていく。

「鈴祢ッ!!」



僕は頭に鈍い痛みを感じて、目を開いた。

ぐしょぬれで冷たくなった服。

どうやら僕は岸へ流れ着いたようだ。

まわりはもう真っ暗。

何も見えない。

僕は頭をおさえて立ち上がった。

今は何時だろう?

ケータイもないし、公園やコンビニもこの近くにはないみたいだ。

僕は振り返って海を見る。

また海へと足を踏みだした。

チリリンッッ!!

鈴の音が僕の耳元で強くなった。

『いっちゃダメ!!』

「えっ?」

僕の耳に聞こえた愛しい人の声。

「鈴祢いるの?」

聞いても誰も答えてはくれなかった。

しばらくすると、家出捜索をしていた警察の人につれられて僕は家に帰った。

お母さんは泣いていた。
政也さんは僕を優しく笑って家の中へ入れてくれた。