お気に入りの場所。

桜は僕を手招きするみたいに散っている。

桜の木下にはとても見覚えのある表紙の本。

『海を越えた記憶』

白地の表紙に黒字で刻まれた文字。

鈴祢に貸した本だ。

なんでこんなところに?

本を開くと真ん中のページに四つ葉のクローバーがはさんであった。

最後のページには手紙があった。

『森山くんへ』

白い封筒に刻まれた優しい鈴祢の字。

僕の目からは、昨日枯れたはずの涙がボロボロ零れた。

鈴祢が残してくれた。

僕に鈴祢を残してくれた。

僕は本を抱き締めた。

僕と鈴祢をつないでくれた大切な本を