鈴祢がこの世から消えて、10時間たった。

僕は部屋のなかに閉じこもってる。

布団のなかにいる。

僕の初めての恋だった。

初めて愛した人だったんだ。

先の見えない暗くつまらない人生に光と幸せをくれた人。

消えないで

マッチの火のように淡く灯り始めた光を消したりしないでくれ…

鈴祢…

お願いだからもう一度その声を聞かせて
あの笑顔で笑って
鈴の音を聞かせて…

僕の目の前にはケータイがある。

でも、どんなにこのケータイの履歴も電話帳も見ても鈴祢はいない。

僕には鈴祢が残してくれた物は何もない。

何もないんだ…

あるのは記憶だけ。

お気に入りの場所でスケッチをする彼女。
美術室から顔を出す彼女。
走り去る彼女。
紙飛行機を作るのが下手な彼女。
笑顔な彼女。

僕には記憶しかなかった。

僕は朝学校に行く。

彼女がいてくれてる気がして。

走って、走って、走った。

でも彼女はいないんだ。

お気に入りの場所にいないんだ。

美術室にもいった
でも彼女はいない。

窓の傍に立つ。

彼女がいてくれた場所。

お気に入りの場所で彼女が笑ってくれた気がして僕はまた走った。