その日の夜。私は自室の電気を消し、ベッドの上で丸くなり、失恋ソングをただひたすら聴いていた。

今日だけは、今日だけは、年に一度の悲劇のヒロイン気分でいてやろうと思う。


そのままの状態で暗ーい曲を10曲程聴き終わったところで、サイレントモードの携帯が光った。サブディスプレイには、さやちゃんの名前。

私は上半身を起こし、鼓動が高鳴るのを感じながら急いで携帯に腕を伸ばした。


「も、もしもし」

先に口を開いたのは、私。


「…みー、どうしよう」

さやちゃんの声は囁くように小さく、一言も聞き逃さないように携帯に耳を押し付けた。


「どうしたの」

ばくばく、心臓がうるさい。
もしかしたらさやちゃんよりも心拍数高いかも。



「……おっけー、だった…」


吸い込みかけた息が、ぴたっと止まった。



「…え、本当っ!本当なの!?」

「…うん…本当…!信じられない!」


きゃーっ、と、どちらの声か分からないが、甲高い悲鳴が耳をつんざいた。

電話の向こうの息が荒い。さやちゃんは泣いているのかも。




…あ、頬、つめたっ。


「ごめん、みーがこんな時に」

「なに言ってんの!やめてよ…人が喜んでる時にさっ」


素直に嬉しかった。

自分が失恋した直後の他人の恋の成就ほど憎らしいものはないって思ってたけど、

さやちゃんは別。


さやちゃんの喜びは、私の喜び。

私がどんな気分であろうが関係ないの。



「ありがとう、みー」


さやちゃんの朗報のお陰で、今夜はよく眠れそうです。

幸せな気分のまま、今日は眠りに落ちよう。嫌なことなんて全部、忘れて。


その意を伝えて、さやちゃんとの通話を終了した。


その日は多分、3分以内に私の意識は完全に途絶えたんだと思う。