しかし、その涙は彼を困惑させてしまったらしい。
「黒瀬さま…!
どこか傷みますか…!?」
本当に、記憶がなくなっても
…彼は彼だ。
「ごめん…。
別にそうじゃなくて…」
「……?」
「ただ、嬉しいの」
涙を手で拭い、そう言って彼に笑いかける。
「………。」
「…どうかした?」
「いえ、ただすごく懐かしい感じで…
貴方の笑顔を見ると、胸が締め付けられる思いです」
『───感覚は、忘れません。
遠くで、その感覚は覚えています。
例え、すべてを忘れていても心は全部、覚えています』
「…狐燈」
「それが、私の名前ですか?」
「うん。
素敵な名前でしょ?」
「とても」
そう言って、彼は優しく、ふわりと笑う。