「あの男は、今もあそこにいるはずだ」
本当にもう何を言っているのか、完全に意味不明である。
もう存在しないはずの人をあたかも、そこへ存在するように言うのだから。
「………。」
「俺から言えるのは、それだけだ」
それじゃあな。
そう言って笑うと、身体の向きを反転させる。
そして、モコモコと雪をかき分けてあたしから離れていった。
「…鬼藍さん……!」
それをあたしは精一杯の声で呼び止める。
「…まだ何か用か」
「鬼藍さんは、突然いなくなったりしませんよね!?」
あたしの言葉に、鬼野郎は微かに口角をあげた。
「さあな。
いずれは、そうなるかもしれない」
しんしん、と降る雪の音に、静かに紡ぎあげられる言葉。