暴走後は、記憶は残らない。
ただ、起こったことが目の前に、映し出されることだけだった。
何が起こったのか、どうしてしまったのか、何一つわからない中。
時はすでに遅く、我に返った時春樹さまは目の前で倒れていた。
『…孤燈、お前は、お前でいい。
それを、忘れるな。
そこから逃げない勇気を、持て』
弱々しくも凛とした声で紡いだそれが、私が聞いた春樹さまの最後の言葉だった。
そして、再び…
私は、逃げた。
状況からも、自分自身からも、妖怪だということからも、何もかもを捨てて。
──ただひたすらに、逃げた。