「どうしたんだ?」
近くまで歩み寄り、声をかけてしまった。
「……親と、喧嘩したの」
蚊の鳴くような声でポツリと呟いた。
「…そっか。一人じゃ危ないし送ろうか?」
「いい……。家、すぐ近くだから」
「そっか…」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が訪れる。
「…じゃあ気をつけなよ」
俺は逃げるように歩き出そうとした。
「ねぇ……」
すると、不意に女の子に声を掛けられた。
さっきまで、一度も顔を上げなかった女の子は
ベンチから立ち上がって、こちらを見ていた。
黒髪のセミロングで、大きすぎず小さすぎない目。
どこにでもいるような、普通の女の子だ。