今から10年前の春。
私は初めて一人で旅行をした。
行き先は…久美浜。
高校生の私は、部活が忙しかった為、恒例の“里帰り”に行けなかった。
興味本位と冒険心で、私は初めて電車を乗り継ぎ、一人で田舎に帰った。
昼間はばぁちゃんの見舞いに行き、夜はじぃちゃんと過ごした。
いつも煮物と魚で賑っていたコタツ机の上には、孫を気遣ってか、
毎日コロッケとカニが並んでいた。
ある夜、楽しく話していたじぃちゃんが急に席を立ち、出かける用意を始めた。
この楽しさをばぁちゃんと感じたい、というのだ。
寝たきりのばぁちゃんは、話すことができない。
硬直してしまった指や関節を、じぃちゃんは毎日毎日マッサージしながら話しかけていた。
明日一緒に行くやん。
私の止めるのも聞かず、じぃちゃんは自転車にまたがり暗い道をこいでばぁちゃんに会いに行ってしまった。