「ゆみかー
今日、どうしたの?」
「え?なにが?」
「体が固かったよ?
気のせいならいいけどさ。」
こういう時、長年付き合ってきた友達は恐ろしい。
全てお見通しということだ。
「そんなことないよ!」
「ならいいけどさ。」
聡美の言う通り、今日の部活には集中できなかった。
多分、あの人達のせいだ。
忘れたいのに…
相手にするんじゃなかった。
「ゆみかっ♪
今日、帰りひま?」
聡美が身を乗り出す。
「うん。
特に何も無いけど…」
「じゃあさっ、帰りにゲーセンでプリ撮ろうよ?」
そこまで乗り気でもなかったけど、今日の事は全部無かった事にしよう。
そうすれば大丈夫。
明日から部活も集中できるはずだ。
「うん。行こー♪
どこのゲーセン?」
「あの駅前のっ」
「りょーかい」
駅前のゲーセンは中学校から近い。
家に帰るまでに少し回り道をすればすぐに着く。
「んじゃ、着替え終わったから校門の前で待ってるよー」
着替えるのが遅い聡美を置いて、更衣室を出た。
風が気持ち良い。
夏は昼は灼熱だが、夕方は丁度良い。
「なんのプリクラにするー?」
風に当たってもスッキリしないものもある。
そう。
あの人達…
今思えば、男子に嘘でも可愛いなんて言われた事ない。
多分、忘れられないのは心のどこかで小さく喜んでいたのかもしれない。
「……ねぇ…ねぇっ!
由美香っ」
「あっ」
「ちょっとーっ『あっ』じゃないよーっ」
「ごめん…
何の話?」
マイワールドに入り込みすぎた。いくらなんでも自惚れすぎだ。
「だーかーらっ
どんなプリクラで撮るって話!」
聡美は不機嫌だ。
「ごめんね。
ボーッとしちゃった。」
「たっくもー…
しすぎだよっ」
「すみません…」
ゲームセンターに着いた。
中には学生がたくさんいる。
中学生、高校生、大学生…
小学生もいる。
別に珍しくないけど…
小学生って……
「あっ!
新しいプリ機出てるーっ」
聡美がはしゃぐ。
「これ、映りよさそうだね。
これにしよっか。」
聡美に言った。
「そうしよっ♪」
聡美はごきげんだ。
が、入荷したてのプリ機なのか、結構な人数が並んでいる。
カップルや、友達のグループでその列は構成されている。
「あっちゃー…
すごい人だな。さすが新プリ機…」
聡美が呟く。
「そうだね。
でもせっかくだし、並ぼ?」
「そうだよね。」
最後尾に向かって歩きだした。
「それにしてもさぁ……」
聡美が顔をどんよりさせた。
「?」
顔を覗き込んだ。
すると、聡美は深く息を吸った。
「カップル多くないっ?」
何かと思えばっ
そっちかい!
ま、それはあたしも思ったけどさ。
「そりゃねー…今は普通だからねぇ」
「なんで、みんなはあんなにすぐに付き合えるんだろ…」
顔をうつむかせた。
でも聡美って先輩とメアド交換してるんじゃ………
「先輩とはアド交換してから進展ないの?」
思いついたから聞いてみた。
「そんなの、すぐにあるわけないじゃーん。」
「あははっ。そっか、そーだよね。」
「もー…。傷つくわぁ…。」
ふてくされた顔を見せた。
「ごめん、ごめん。」
と、軽く謝った。
「先輩さー、好きな人いるみたいなんだよね。」
プリクラを撮るまであと2番目くらいまできた。
「えっ。そうなの!?
誰?」
「教えてくれなかったぁ。」
次でやっと撮ることができる。
「まー、好きな人がいてもおかしくないと思うけどね。」
「そうだけどさぁ…。
いざ、自分の好きな人に好きな人がいるって本人から聞いちゃうのって結構、つらいよ。」
「確かに。」
本当にその通りだ。
あたしはまだ好きな人とかいたことないからそういう気持ちを経験したことないけど、もしあたしが聡美だったらつらい。
「あ、もう入れるね。」
聡美が前の人がらくがきコーナーに移動するのを見た。
こういう話をしているとすぐに時間が流れてしまう。
「変顔してやるっ」
「やろっやろっ」
夏休み最初のプリクラだ。
「良い感じに写ってるっ」
「聡美、この顔はいくらなんでもマズいでしょ。」
「そこはスルーでいこう。」
「こっちは2人ともめっちゃ詐欺ってるねー。」
2人で笑いながらゲーセンを出ようとした。
「ちくしょー。また取れねー。
あとちょっとだったのにー…。」
「もう行こうぜ。何回やってもダメだろ。」
「やだっ!ぜってー取るっ」
学ランを着た男子が2人、ぬいぐるみのユーフォーキャッチャーの前に立っていた。
いや、正しくは、
1人がユーフォーキャッチャーの前で奮闘していて、1人はあきれ果てているところだ。
「なに、あれ?
かっこわるー…。」
聡美がつぶやいた。
確かに。
あんな大声で言うなんて。
しかもたかがぬいぐるみじゃない。
はやくゲーセンから出よ。
出口の自動ドアが開いた。
「あれっ、由美香ちゃん!?」
はっとして振り返る。
見れば、さっきの人達だった。
最悪。
さっきまでは忘れてたのに。
胸の奧で煙突から煙が出てるみたい。
その煙は黒かった。
「いやー、奇遇だねっ!部活帰り?」
モヤモヤ
胸の中が煤(すす)で真っ黒になりそう。
「誰?知り合い?」
聡美が小声で聞いてきた。
「あ、えっと…。」
これはどう説明すればいいのか。
とにかく、さっき起きたことを全て話そう。
別に悪いことしたわけじゃないんだし。
「あのね、聡美。この人は――」
その時、列に割り込んでくるかのように声を発してきた。
「友達でーす!」
「………は?」
なに言っちゃってんの?
この人……。
「えっ、そーなの!?
いつから!」
聡美が驚いて聞いてくる。
「違うよ、聡美。
友達でもなんでもないから。」
男の方に目を向ける。
この人、名前なんだっけ…
ま、最初から覚えるつもりはもちろんない。
「あの、誤解するような言い方止めてくれます?」
すると、相手は黄色い笑顔で、
「だって、さっき喋ったじゃん!」
こいつ……!
顔面パンチでもしてやろうか。
「おい、涼。もう行こうぜ。」
この声………
さっきも聞いた。
もしかして……