「...知らない」



「知らねぇはずないだろが、なめてんのかお前」


何だか、さっきよりもさらに機嫌が悪くなったみたいで、伏せていた顔をこちらに向けてくる。

ごまかしは聞かないとわかり、一つまた溜息を吐く。
でも、まぁ相手がばれない限り、別に何を言おうと意味ないか...そんな考えを過ぎらせながら口を開いた。





「...好きな、人がいるの」


――あぁ、しまった。
一つ一つの言葉がいちいち苦しい。


「.......」


――呼吸をするたび、心臓が動くたび、心は痛みに支配されてしまう。


「でも、だからって言うつもりなんてないってゆうだけの...つまらない話だよ」



途切れ途切れだけど、彼の目を見ながらゆっくりと呟く。

あたしの言葉に彼は何も反応を見せなくて、...たかがそれだけでずっと守ってきた世界が揺れる。



そして、しばらくしてそんな彼は私言った。




「言えない愛なんて、何になる?」



真っ直ぐにこっちを見つめながら少しだけ顔を歪めて。