「千亜樹ー帰らないのー?」
光也さんがくるりと回りこちらを見た。
「か、帰りたいんですけどー」
「怖いのー?」
少し叫ばないと聞こえない距離なので、
近所迷惑を忘れ、会話をした。
「そうですー…」
細い声で答えると、
光也さんは私のほうへ足を進ませる。
「仕方ないから、送ってってあげるよ。
途中まで」
“途中まで”
まだ信用してないのに気づいて
言ってくれたのだろうか。
何にせよ千亜樹は嬉しかった。
さりげない優しさに口元がニヤける。
「何?」
いや、なんでもない。ありがとう。
と前を向いたまま言う。