あたしが返事をすると、なんだか色々な時間が急激に進んだ気がした。

 裕一さんはすぐに手続きをするといって病室を後にしたし、お母さんはあたしを優しく抱き締め、

「ありがとう。――ごめんなさいね、辛いことを決めさせて」

 あたしに何度も謝ってくれて。

「ううん。あたしが養女になってもお母さんと一緒なんでしょ? だからいいの」

 謝らないで、って言って、あたしはお母さんの腕の優しさに甘える。

「えぇ、そうよ。ずっと一緒よ」

「うん。じゃあいいの。あたし、喜んで養女になる」

 なんとなく――だけど。

 あたしが養女になれば、お母さんはまた元気になって、そして今までみたいな苦労はさせずに済むような気がして。

 根拠はないけれどそう思ったから、このときのあたしの心の中は、少し前に抱いていた葛藤を全て消していた。

 犠牲、じゃない、純粋な気持ち。

 何よりこのときの心で大きかったのは、今までと変わらずお母さんと一緒にいられる、という点。

 養女になっても一緒――それがあったから、あたしは養女の件を受け入れることが出来たし、純粋な気持ちになれた。

 ――このあとに起こる悲劇を、まだ知らなかったから。