今になって思えば、その言葉がどこまで真実だったのかは確かめる方法はない。

 本当にお母さんも仲春の家にお世話になる予定だったのかもしれないし、あたしを安心させるための嘘だったのかもしれない。

 後になればいくらでも考えが浮かぶ。

 けれどそのときのあたしは、その言葉を疑うことはなかった。

「本当……?」

「えぇ、本当よ。さつきは雄大さんの子じゃないけれど、仲春の血は流れているから、これからの将来のことを考えてあなたには仲春の名を持ってもらいたいの。――本当だったら、あなたも仲春を名乗って生きて行くはずだったんですから」

「……」

「あなたの意見を聞かずに悪いと思うわ。でも……お願い、さつき。お母さんを1つ安心させて? 大丈夫。養女になったからって離れることはないわ」

 このときのあたしには自分が養女になる本当の意味が分からなかったから、素直に頷く気持ちになれなかったけど。

 でも、深層意識の中で感じていた「悪い予感」が、そんな葛藤を包んで反発する気持ちを相殺させていたのかもしれない。

「――うん。お母さんがずっと一緒って約束してくれるなら……」

 離れることはない、っていうお母さんの言葉を一番に信じたかったあたしは、自分を納得させ、お母さんに告げられた養女の件を承諾した。

 物分りの良い子を演じるつもりはなかったけれど――そのときのあたしにこの選択肢しか残されていないってことは、真実を知らされないなりにも感じていたのかもしれない。