…なんかもう、ぜんぶぜんぶ。
──すきやなぁって、思った。
めちゃめちゃ好きやなぁ。志波くんのこと。
そんなのはじめてやってん。
あの人かっこええなぁとか、そういうのは今までにもあったけど。
誰かをほんまに、めちゃめちゃ好きやなぁって思えたのは。
…でもある日、何人かで飲んでた時のこと。
志波くんの友達が、酔っぱらった口調で言ってん。
「志波ぁ〜!そういや地元のカノジョ、元気ぃ?」
一瞬頭の中、真っ白になった。
ああ、そっか。そうなんや。
志波くん、彼女おったんや……。
みんなに合わせて、ふつーに楽しく笑ってた。
いっちゃんの、彼女さんの話で。
聞きたくない。聞きたくない。
笑え、笑え、笑え。
いつのまにか時間は過ぎて、飲み会も解散することんなって。
「岡野んち遠いやろ。送ってくわ」
志波くんがそう言ってくれたから、ふたりで自転車を並んで走らせて帰った。
夜風がひんやりしてて、心はぽっかり穴があいた気分で。
つめたいのが、そん中をすーって通っていって。