"いっちゃんのいちばんすきなとこってどこ?"
さっき聞いたばっかのさっぺの声が、頭のうらっかわで響く。
1番すきなとこ、鼻の高さとか。
…そんなんうそやん。
出会ってから3年と少ししか経ってへんけど。
付き合い始めてから1年と数カ月しか経ってへんけど。
いっぱいある。いっぱい知ってる。
…すきなとこ、いっぱいいっぱいあるよ。いっちゃん。
「いっちゃん。」
「ん?」
「……ううん」
「ははっ、なんやねん」
「なんでもない」
ウチの好きな低めの笑い声が、耳の奥でふるえる。
ああ、そっか。
ウチ、いっちゃんの笑い声も好きなんやなぁ。
今あらためて、そんなこと実感した。
なあ、いっちゃん。
「何でもないねん……。」
月はどどーんと真上に、ずっと遠くに構えとるはずやのに、なんかわからんけど、今のウチにはか細く震えて見えた。
…ほんまになんにもないのに、泣きそうな気持ちになるんは、なんでなんやろ。