｢どしたんいっちゃん？｣
｢あっ、今日帰ってくるとき電池買ってってもらってええ？部屋の電気のリモコンとうとう寿命らしいねん｣
｢リモコン？…あ、たしかに使いにくくなっとたもんなぁ｣
普通に押しても効かへんから、電池こすりあわせて無理やり使ってた。
そしたらなぁ、ちょっとの間だけふっかつすんねんで。
昔からの、岡野家定番の裏技。
｢…っていうか、もうすぐ帰るんやったら迎えにいこか。一緒に買って帰る？…て、今日バイク大学おいてるからチャリしかないねんけど｣
｢ううん、大丈夫！｣
部屋ん中を振り返って、カベにかかっとる時計を見た。
…もうこんな時間なっとったんや。
実家におったら｢不良娘や〜！｣って言われる時間。
…もうそろそろ帰ろうかな。
｢電池、単三やんな｣
｢うん！単三｣
月が、まんまるい。
違うな。ちょっと欠けてるんかな。右っかわの上の方。
こんな月、どっかで見たことある。
…ああ、そっか。
実家に帰っとるとき。
実家のベランダで、いっちゃんと長電話した時や…。
