みんなに奇襲攻撃かけられて死にかけてたら、ぴんぴろぴろりん、て。
カバンの中の携帯が歌い始めた。
アヤちんの下からほふく前進で這い出して見てみたら、ディスプレイに表示された電話の相手は───"いっちゃん"。
…すばらしいタイミングやな、いっちゃん。
彼女のわきばらのピンチを救うとかよーできた彼氏さんやわ。
ひゅーひゅー、て、まさしくオヤジみたいに騒ぎ立てるアヤちんらに見送られ、ベランダに出る。
だって電話の内容聞かれるとかこそばゆいねんもん。うるさいし。
ベランダはちょっと肌寒くて、世界からひとりだけ浮き上がったみたいな。
見下ろせば自分の下で、車のライトが速いスピードで流れてく。
「わっ!…っと……」
「ん?大丈夫か?」
「あ、うん。段差つまずきよった。…ベランダ出てん。後ろで乙女の皮かぶったおっちゃんらぁがうるさいから」
「はは、おっちゃん?」
「うん、おっちゃん」
鼻のてっぺんを夜の風がなでていく。
鼻をすすったら、しゅん、てさみしい音がして、なんか泣いてるみたいに聞こえた。