眉間に皺を寄せ、少し心配そうに見ているゆき乃を見て、愛おしいと思う。

それが、酒に酔っているからなのか、そうじゃないのか…分からない。

腕を伸ばし、ゆき乃の頬を撫でる。

指先に感じる温かく柔らかい感触が、心の奥を熱くする。

私の不可解な行動に、ゆき乃は瞳に、戸惑いと不安を乗せて見つめ返す。

口元が少し動き、私の行動の意図を聞こうとしたその瞬間、ゆき乃を抱き込んだ。

腕を首の後ろに回し、そのまま引き寄せる。

傾(なだ)れ込む身体を胸で受け止める。

何が起こったのか理解できずされるがままになっていたゆき乃も、状況を把握し腕を解こうともがく。

「あっ。えっ。何。…ていうか、離してっ!」

「…ゆき乃」

声をかけたその瞬間、ばたつかせていた手足を止めた。

しかし、それも一瞬のこと。

次の瞬間には、大きな音を立てながら床に転がり、逃げるように私から離れていった。

―バタンッ―

ゆき乃は振り返ろうともせず、部屋から飛び出す。

リビングの扉の向こうから、もう一度大きく扉を開閉する音が聞こえ、自分の部屋へ行ったことが分かる。

ローテーブルは大きく斜めに移動し、ゆき乃が片付けようとしていた空き缶は再び床に転がっている。

私は、まだソファの上に寝転がっていた。

そこには、全身で感じたゆき乃の体重と体温と、胸を打たれた痛みがあった。