突然タクシーがガタガタと揺れはじめ、道があまり整備されていないところに入り、お寺がもう少しだと分かる。

「もう少しだからね」

「はい」

大きな桜の木が見え、もう少し早い季節に見たら圧巻だろうと思う。

(いつか。二人で見たいな)

過去の幻影を再生するかのように目を閉じ、二人きりのお花見を思い浮かべる。

「着いたよ」

顔をあげると、おじいさんが私を見てニッコリと微笑んだ。

「ありがとうございました」

そう言いながら、お金を手渡し、開かれたドアから出て行こうとする。

「待っていようか?」

「大丈夫です」

「でもこんなところ、タクシーなんて通らないよ」

私を心配そうに見ている。

「その辺を少し歩きたいんです。タクシーが必要な時は…お寺から読んでもらいます」

「そうかい」

おじいさんは、まだ心配そうな目をしながら、ドアを閉め発車させる。

敷き詰められた砂利を踏み締めながら、母のもとへと向かう。

『篠宮家之墓』

そう彫られているはずの墓は、代々終(つい)の棲家(すみか)として使用されてきたため、今では何と書いてあるのかは分からない。

母はここに眠っている。

パパもきっとここで眠るのだろう。

だって、ここにママがいるんだもの。

でも私は?

私は、結婚をし、姓を変えたらここに入ることはできない。

そもそも、パパ以外の誰かとそうなることなんて考えられない。

時が止まったかのように、無言でお墓を見つめていた。