「無理していかなくてもいいんだぞ」

私を気遣うように発せられたその言葉。

いつもなら何とも思わない何気ない言葉なのに、何故か私の中で黒い感情が胸の奥底に黒い感情が沸々と湧き上がってくるのが分かる。

「どうかしたのか?」

箸を持ち上げたまま、一旦停止した私を訝(いぶか)しがるように見つめる。

「…ううん。何でもない」

そう言いながら、もう冷めてしまった肉じゃがをつまむ。

口の中に広がる優しい甘みを噛みしめながら、私は何でこの人の娘なんだろうと。

何度考えたことかもわからない、そして、何度考えても答えの出ない問いで頭を埋め尽くす。

私はお茶碗を片手に、ご飯をつまもうとしながら、止まっていた。

「やっぱりどうかしたのか?」

顔を上げなくても、心配しているパパの表情が見えた。

「…ううん。何でもない」

さっきも明るく答えられたわけじゃないけど、さらに声のトーンが落ちたことが自分でも解った。


黒く染まった私の心から流れ出す感情のせいで、包んでいたはずの温かい空気は、冷えて固まってしまっていた。

(ごめんなさい…)

いつもなら素直に言えるその言葉すら言えなかった。

理由は分かっていたけど、分からないふりをした。