『ねえ、本当はね、喫茶店って人が温まりに来る所だから質問なんてだめなんだろうけど………
よかったら名前。教えてくれる?』
「莉玖。西宮 莉玖です。」
『莉玖ちゃん。かわいい名前だね…、』
かわいい名前、
そんなこと言われたの初めて
かもしれない…
《りく》って男の子みたいで昔から
嫌いだった。
でもちょっとだけ
頬が熱くなった。
本当はまだ残ってたら…
なんて思いながら最後の一口を
少し冷えたココアを飲みほして
コップをおいた。
「ココア。おいしかったです。
私失礼します、」
『うん。またね、』
男は動こうとしなかった。
「あのーお会計…、」
ドアの直前まで男は何も言わない。
『いいよ。今日は巻き込んじゃったから
お詫び。
その代わりまた来てくれる?』
この人は何人の女の人にそれを
言ってきたのだろうか……
そんな微笑み、
薄暗くてよく見えないけれど
はっきりと見えた。
整った鼻、大きな瞳、薄くてきれいな唇、
美しい顔が笑っている。
でも、わかっていても、
ぐらついてしまう。
ひかかってしまいそうになる。