少女のその美しい微笑みは。おぞましい事この上ないものだった。

母は大量の札束を持って夜の街に出かけた。
それはもう嬉しそうに。まるでこの世の全てを手にした女王のようだった。
きっと、帰って来る頃には見た目まで女王のようになっているに違いない。
だが、そんな事はどうでもよく問題は私と翠が二人きりになった事だ。
好都合、とも言うが。

「何か、飲む?」

私の第一声。いくら、何かあると思ってもこんな小さな女の子に対して何かしようものなら、明らかな善悪がついてしまう。何より子供相手に何かする自分が許せない。

「いただきます」

翠は、笑う。

「お茶でいい?」

「はい」

私は台所へ向った。チラリと翠を盗み見たが、相変わらず翠の微笑みは消えなかった。

(薄気味の悪い…)

心からそう思った。普段自分が思われているだろう感情だ。
それでも私の表情がピクリともしない。今この状況でそれは何より好都合と思えた。
私はお茶の支度をして、翠のいる居の間に戻って来ると彼女の前に湯のみを置いた。翠は軽くお辞儀をしてありがとうと笑った。
私は、そのまま自分の手前に湯飲みを置き、翠と向かい合わせになるように座った。
翠は静かに私の入れたお茶を飲む。

自分も湯飲みに口を付けながら翠を凝視した。
髪は日本人形のようで真っ黒で前髪がパッツン。瞳も異様と言える程に真っ黒だ。
日本の特徴だが、あまりに不自然だった。