「何か用か?」


冷たい言葉を投げかけると彼は肩を竦ませ、やれやれといった感じで輝好の隣に飛び降りた。


「別に。ただ、こんな日にわざわざこんなところまで来るやつは珍しいなって思っただけ」


「それはお前もだろう」


そうだった、と苦笑する彼はどこか感じがいい。


体育館で会ったときは、無表情だったのであまりいい印象ではなかった。


「で?ここ気に入ったの?気に入ってないの?」


「悪くはない」


表情も変えずに淡々と輝好は答えた。


「じゃぁ、ここの鍵あげようか?」


ニヤっと妖しい微笑を見せ、ポケットから鍵を出すとそれを輝好の前にちらつかせた。


「何故そんなものを持っている?」


よく考えてみれば、セキュリティも万全のこの学校が、どこかの鍵を開けたままなど有り得ない話だった。


本当ならこの扉にも鍵がかかっているはず。


鍵だって生徒はそう簡単に触らせてもらえない。


なのにコイツは持っている。


「ん?スリは僕の得意分野なんだ」


さらっと犯罪まがいなことを口にした彼はどこか楽しそうだった。


「覚えといた方がいいよ。この建物は万全だけど、教師は穴だらけってことを」




一体こいつは何なんだ・・・





「何故俺に?」


当然の疑問を口にすると彼はニコッと笑い只一言「俺が気に入ったから」と答えた。


「どうせ、この鍵あと二つあるし」


「ということは合鍵か?」


「That's right!ついさっき、ちょっと本物を拝借して作ってきたってわけ」


ちなみに本物はもう返してきたよ、とその言葉からは罪悪感はないようだ。


「で?いるの?いらないの?」


先程と同じ口調で問いかけてくる男はどこか挑発的だ。