入学式、当日。
春の暖かい風が吹く中、私は燐海南中へと向かった。
いつもと同じ天気。
いつもと同じ風景。
なのに、私の中は「初めまして」でいっぱいだった。
私、夏目燐には、小学校の時親友と呼べる存在がいた。

『ゆいちゃーん、あーそぼぉー』
『りんちゃーん、今日はこーえんいこぅねー』

唯ちゃん。
同い年で、幼稚園の頃からの大事な親友。
どこに行くのもいつも一緒で。
顔も似てたから、『双子?』といわれた事もあった。
唯ちゃんは、親友。
親友…だった。

『燐ちゃーんっ!!』
忘れもしない、5年生の頃の冬。
『唯ちゃん!ごめん、待った?』
『ううんっ、いこ!!』
その日は、何年ぶりかの大雪で暖かいこっちの地方に
これだけ雪が積もるのは、とても珍しかった。
唯ちゃんと私は、近くの並木道に遊びに行った。
お揃いのピンクのマフラーをつけて。

『唯ちゃん、雪合戦しよー!』
『いいよー!いっぱい当てた方が勝ち!!』
唯ちゃんと私は、時が流れるのを忘れた。
いっぱい、いっぱい遊んだ。
気づくと辺りは真っ暗で、寒くなってきた。
『そろそろ帰ろっかー、あれ?燐ちゃん?』
『わっ!!』
パキッ

…唯ちゃんを驚かそうと思って、後ろから押した。
唯ちゃんは雪の上に倒れて、困った顔をした。
『もぉ~、びっくりしちゃったじゃん』
『あはは、ごめんごめん』
唯ちゃんの方を見て、私は初めて気づいた。

ここは並木道から数m離れた場所。


ここには、深い川があったんだ。

ピキ、ピキピキ

不自然な音が、耳を通りぬけた。
『唯ちゃん、危ない!!』
とっさに私は、唯ちゃんの腕を引っ張った。
『唯ちゃん、ここ危ないから逃げよう!』
『うん…  !!』
唯ちゃんは私の手を振りほどいて、走り出した。
『ゆ、唯ちゃん!?危ないよ!!』
唯ちゃんの走る方向に目をやると

そこは、さっきの場所で

ピンクのマフラーが、落ちていた。

『唯ちゃん!!唯ちゃん!!』

メキメキッ、バコッ

今度はさっきよりも大きな音が聞こえた。