この人は、どうやって育てられたのかな?

きっと『良い人の作り方』っていう本があったとしても。こんなに優しい人は作れないと思う。


他人を信じない、頼りにしない、関わらない僕でも、この人は本心でそう言ってるって分かるほど、真剣な顔をしていた。



「ごめんなさい…もう言わない。でもこれだけは返す。」

心からそう思った。

僕も真剣に言った。


しっかり千尋さんに伝わるように…。




「要らないよ。もう返さなくていいから。」



僕はもうなんて言っても、受け取ってもらえないって分かった。

「ん…。じゃあ一応、持ってる事にする。」




それから彼は、話題を変えてくれた。

まだ、駅で会ってから5分も経ってない気がして、でももう1時間も経っていて。



僕は話しを遮って、聞いてみた。



「千尋さん、今日は何にも予定ないの?」

さっき電話を1回切ったのは、忙しいからだと思った。
でも。

「ないよ?」

千尋さんはそう言った。