静まりかえって活気の消えた静かな商店街を抜けて自宅。



「おかえりなさい。」

何も言わずに家に入ると、住み込みのお手伝いさんの百合子さんが
決まって僕を出迎えてくれる。

「ただいま、百合子さん。」


百合子さんは、優しくて何でも完璧にこなせて
非の打ちどころの無い魅力的な人。
32歳の独身で、結婚をしないで働いてくれているのが
僕にとってとても有難い。


「孝治さんは、寝室に居るよ。」


僕が帰ると、必ず百合子さんは親父の居場所を教えてくれる。
僕が持ってきた金を親父に渡すと知っているのか
僕には分からないけど、知られていても構わないから気にしない。



前に僕が、この無駄に広い家で
帰宅してから親父の書斎や寝室を回って
汚いこの金を渡そうとしていた時
親父が見当たらないことがあった。

僕は出かけたと思い、部屋で大人しくしていると
ドアが勢いよく開けられ親父が入ってきて殴られた。

すぐに金を渡さなかった事に怒っているらしかった。
どうやらお風呂に入っていたようで、
僕には気付くはずが無い。

まー、どうでもいいけど。

容赦なく殴られたせいで痣だらけになった僕を
不憫に思った、百合子さんの配慮だろう。