ホテル街の脇に停めてあった黒い高級車に着くのには時間はかからず、彼は助手席のドアの前に立った。
まさか、運転手でもいるのだろうか、と思ったけど違ったようで
車のキーを解除すると助手席のドアをスムーズに開けて「どうぞ」と言った。

純日本人の僕はスマートなエスコートには慣れていなければ、そんな人間らしい扱いをされた事もなかったので、たじろぎながら「ありがとう」と言って彼に促されて車に乗り込んだ。
その後、彼は助手席のドアを静かにそして優しく閉めて、自分も車に乗った。


言葉はなく、車のステレオから流れるBGМを聞きながら車は発進した。


この人お金持ちみたいだし、高級ホテルで僕を買う気なんだろう

そう思った。
さっきまで居たラブホテルなんか、この人には似つかわしくない。
僕にはあそこでさえ、充分だろが。

そのくらい、彼と僕の見た目では月とすっぽんくらいの差があった。



「あの…途中でコンビニに寄ってもらっても?」
僕は遠慮がちにお願いした。

すると彼は「どうして?」と、僕の方を見ずに言った。

「歯ブラシ、ほしいの」


きっと高級ホテルに行けば、部屋に備え付けてあるだろうと思ったけど
ホテルの使い捨て歯ブラシは、ブラシの部分が大きく磨きづらい。

「そっかぁ、さすがに気持ち悪いもんね。」



やっぱり、と僕は思った。